村上敦WEBサイト

ドイツ・フライブルク市在住のジャーナリスト、コンサルタント(エネルギー・交通・まちづくり) 村上敦

電力需給実績の見える化について

皆さんは、「電力会社」「情報公開」と聞いて、どんな印象をお持ちでしょうか? 情報隠蔽? 資料請求に対する黒塗りの資料? 

私の住むドイツの発電所を運営してる事業者は、電力取引市場の公正を担保するために、前日までには自身の発電所の発電計画を市場参加者に透明性高く報告しなければなりません。また、取引市場では、翌日の太陽光発電、風力発電の予測状況を公開することで、市場取引参加者に共通の透明性高い情報公開を担保し、インサイダー取引など公正取引を阻害する事柄を取り除く努力がなされています。

同時に、計画に対して、実質の発電状況もリアルタイムで公開されています。そんな各種の情報から、例えばソーラーエネルギーシステム研究では欧州最大規模のフラウンホーファー研究所ISE(ソーラーエネルギーシステム研究所)、あるいはドイツで最大規模のエネルギーシフトに関するシンクタンク、アゴラエネルギーヴェンデなどが、一般市民に向けて、広く、見やすい情報提供をすることで、電力事業にかかわる情報の公開の一翼を担っています。

エネジーチャート:
https://www.energy-charts.de/power.htm?source=all-sources&week=32&year=2017

アゴラメーター:
https://www.agora-energiewende.de/en/topics/-agothem-/Produkt/produkt/76/Agorameter/

皆さんは、そんなドイツの情報を耳にすると、それに引き換え日本ではまったく電力の情報公開が行われていない、「けしからん!」と思ってはいないでしょうか?

はい、もちろん、ドイツのように日本ではリアルタイムの情報や各種の発電所一つ一つの情報については、まだ情報公開されていません。したがって、その批判は一方では当たっています。

しかし、他方では、すでに201641日から、すべての一般電気事業者(大手電力10社)においては、四半期ごとに(公表は数か月遅れですが…)、1時間ごとの各種の発電源の発電状況、揚水水力の使用状況、あるいは系統連携の使用状況などを情報公開する義務が課され、そのデータについてはネット上に公開されるようになっているんです。つまり、皆さんの手に届く範囲で、これまで歴史上入手不可能だった情報が、すでに十分に手に入るようになっているんですね。

ただし、残念ながら、この情報は単なる数字の羅列として公表されており、なかなか普通の人では理解できない状況が続けられていました。私個人としては、20173月に至るまで、そのうち再エネのステークホルダーや経産省、あるいは環境省などが見える化をするようになるに違いない、と考えていました。しかし、この春になっても、すでに201641日から2017331日までの1年分の情報が公開されるようになっても、「見える化」は行われることがありませんでした。

したがって、私たちは、建物の燃費性能の「見える化」では、すでに実績がある「一社日本エネルギーパス協会」と提携し、同時に、この事業のスポンサーとして、建物のエネルギー性能を見える化することでうまく他社と自身の建築の省エネ性能の差別化をしている「㈱ウェルネストホーム」に依頼をする形で、日本ではじめてと自負している電力の見える化を実現することが可能となりました。

https://wellnesthome.jp/energy/

本当にこの見える化ツール、優れものなので、皆さん、是非、このリンクをシェア、転送、コピーして世の中に広めてあげてください!

例えば、日本では20164月から20173月までの1年間においては、電力需要に対して、系統に流れ込んだ再エネ(自家消費分と揚水水力は含まない、水力、地熱、バイオマス、太陽光、風力の合計)は、13.8%になっています。多いと思いますか? それとも少ない?

数年前までは日本の発電では、水力9%とその他の再エネ2%程度の合計でおよそ11%だったのですが、20177月の今の時点では再エネの割合は16%程度まで成長しています(2017年の予測値、自家消費分なども含む)。過去5年間で5%も上昇しているわけですから、政府が2030年に目標としている2224%(あと68%の上昇)という目標は、低いような気がしませんか? 

しかし、上記の見える化のツールを使って、201654日の九州電力の電力需給状況を確認してみてください。この日は、GWによって会社はお休み。電力の需要が低いタイミングで快晴だったので、午前11時には太陽光発電だけで61%以上の電力を発電するようになっていますし、その他の再エネを合計すると77%程度にまで発電するようになっています。九州電力では20164月から20173月までの1年間における太陽光発電の発電量割合は8.2%に過ぎませんが、瞬間的には61%を、もし20175月のデータが公表されてきたなら、それ以上の出力を発電するようなタイミングもできてしまうわけです。

九州電力はこうした状況に対して、太陽光発電の出力抑制をかけると公表しています。

http://www.kyuden.co.jp/press_h160721-1.html

そういった状況であれば、変動性再エネといわれる太陽光発電、風力発電はこれ以上必要ないのでしょうか? それとも、再エネを入れにくくしている一定出力で発電を続けるのみの柔軟性のない原子力発電や、最近申請や建設がラッシュの木質バイオマス発電が必要ないのでしょうか?

これらについては、回答をここで急いで出すつもりはありません。このテーマについては、国民的な議論が必要になるのです。

そんなきっかけになるべく、情報の見える化を整備しましたので、それぞれの電力事業者において、それぞれの時間帯、日時において、発電状況がどうなのか、電池といわれる揚水水力発電の使用状況はどうなのか、他社との系統連携がどうなのか、つぶさに観察してみてください。そして皆さんの周りの方と議論してみてください。

その先には、きっと、将来のエネルギーMIX、電源MIXについて、これまでよりも、より一段高いところからの「意見」が待っているはずです。